はがねのようせい

う~ん。私のそばには妖精がいて。

妖精と雪の道 その2

ざくっ!ぼふっ!ずずずずず。

妖精が雪を運んでいる。

 

また雪がちらついてきた午後。

スコップを買って家に帰ってきた私は、駐車場の雪かきを始めました。

妖精のハーさんも一緒に。

勤めていたころ、上司に言われて仕事場の駐車場の雪かきをしたことはあるのですが、自分の所の駐車場を雪かきするのは初めてです。

雪かきどころか、この土むき出しの駐車場、ゴミ拾いをしたこともなかった。

 

私の住む古いマンションの駐車場は今日は車が随分と停まったまま。

「みんな仕事休んでんのかな」

私がポツリと言うと、ハーさんが私の軽自動車の屋根に積もった高さ20センチはあろうかという雪をダンボールの切れ端で下に落としながら言いました。

「そんなわけないじゃん」

私は、ハーさんとは反対に回り、車を挟んで屋根の雪を落とす。

「なんでわかるの?こんな雪だもん。みんな仕事なんか行かないんじゃないの」

「みんなあなたとは違うんです

私は手を止め、ハーさんを睨みつける。

「どうせ失業者ですよ。社会不適応者ですからね」

「いいじゃん。人と違ったって」

ハーさんはそう言うと、落ちた雪で玉を作って私に投げつけて来るのです。

私は雪玉を避けると、スコップを取りに歩き出す。

「あー、はずれたぁ~」とハーさん。

そんな声のすぐ後に、私の背中に雪玉が当たります。

ぼすっ。

続けて頭にもあたった。肩にも。太ももにも。

ぼすっ。ぼごっ。ぶふっ。

私は無視して歩いてゆく。

 

小一時間、自分の軽自動車の周りの雪を書いた私は、車の中に座り、一息ついていました。

ハーさんは雪の中に立ち、タバコを一服している。

まだちらつく雪。

まだ降り続けるのかな。

この駐車場の中、自分の車の周りだけ雪がかかれている。

ハーさんは、タバコをポケット灰皿に入れると、スコップを手にしました。

隣の車の周りを雪かきし始めたのです。

私は車の中から出る。

 

「そんなん、いいのに」

私は車の後ろ、おろして山になった雪を蹴飛ばしながらハーさんに言った。

「まだ降るしさ、キリがないよ」

ハーさんは黙って人の家の車周りを雪かきしている。

「かいた雪どうすんだよ。どこにも捨てる所ないぞ」

ハーさんが振り向いて指さします。

私はその方を見る。

「何?」

「川」

「川?」

そう言えば、駐車場の横には小川が流れてたのでした。

「川に捨てるの?」

「そう」

「妖精のくせに、えらく現実的に物事考えるねぇ」

「へへへ」

へへへ、じゃねえよ。まったく。

 

私はハーさんの指導の許、かいて山になった雪をダンボールに乗せて、川の方へ引きずってゆきました。

十往復ぐらいしたところでダンボールはグチョグチョンに引きちぎれ、こんな運動に慣れない私の体もボロンボロンに破れそうになる。

「はい、もうおしまい!これ以上出来ないよ!」

それには答えず、ハーさんは疲れたらしく、雪の上に寝転がった。

私は怒鳴る。

「はら、また。濡れちゃうよ!」

「妖精だって疲れるもん。まだ人間抜けきってないし。あーあ、あーあ、あーあったら、あーあ」

ハーさん、ブツブツ文句を言いだした。

呆れた私は追い打ちする。

「自分で始めたんだろ!妖精のくせに文句言うんじゃないよ」

「なんだよ!妖精妖精って!妖精だって疲れるんだよ!」

ハーさんはスクッと立ち上がると、その認識できない顔を膨らませて、向こうへ行ってしまうのでした。

 

「あらあら、お疲れ様」

ハーさんが見えなくなった私の背中に、女の人の声が当たります。

ハッと振り返ると、何度か見かけたことのある同じマンションのおばさんでした。

「すいませんねぇ、うちの車の前まで、あたしがやればいいんですけれど、もう体がついて行かなくて。でも、まだ雪降ってるし。ね、もうこれ以上いいですから。本当にありがとうございます」

おばさんが申し訳なさそうに頭を下げてくれているのです。

「あ、はい、いえ、ついでだったものですから」

同じマンションに住んで、何回か顔も合わせて、名前も聞いたことがあるはずなのに、今、その名前を覚えていないおばさんを前に、私は気の利いたこと一つも言えなかった。

 

「風邪を引くから」とおばさんに言われて、私は家に帰りました。

長ぐつの雪を玄関で落としていると、玄関のチャイムが鳴ります。

そのまま扉を開けると、たくさんのミカンとカボチャが飛び込んできた。

おばさんが「おつかれさま」と、くれたのです。

「あ、はい、すいません。ありがとうございます」

お礼を言うのもドキドキの私は、頭を下げて言いました。

「じゃぁ、お父ちゃんの晩御飯作らなくちゃだから。しょうがないよねえ、ほんと」

何がしょうがないのかよく分からなかったけれど、そこは問い詰めず、おばさんは帰ってゆきました。

 

居間に戻ると、ハーさんが電気ストーブの前でお茶を飲んでいやがった。

おばさんの事、ミカンとカボチャの事を話します。

「やったねぇ」とハーさん。

「別にお礼してもらうためにやったんじゃないよ。お前だってそうだろ」

私がそう言うと、「でもやったじゃん」とニヤニヤ。

私は気になったことをハーさんに話します。

「あのおばさん、おしゃべりしたかったのかなぁ」

「そうなの?」

「だって、たいていおばさんっておしゃべりするじゃん」

「じゃぁ、今度すれば?」

私はミカンをハーさんに渡し、「めんどくさいなぁ」と言って座り込む。

「めんどくさいねぇ」ハーさんがミカンをむきながらそう言いました。

2人して、貰ったミカンを一つずつ食べます。

「おいしいね」私は思わずそう言った。

ハーさんの見えない顔が笑って言います。

「ねー、ミカン、どっちがキレイに向けるかやろうよ!よーい……どん!」

私とハーさんはミカンを素早く手にすると、二人で一生懸命、その白い筋を取るのでした。

 

 

◎お読みいただき、ありがとうございました。