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はがねのようせい

う~ん。私のそばには妖精がいて。

妖精とCを探す その1

いろんなものが出て来たぞ。

妖精が押し入れを掻き回している。

 

昔、私は文章を書くのが得意でした。いや、得意だと思っていたのです。

小さい頃は、文章が上手だね、と友達や身近な大人から言われたし、何より物語を考えるのが好きな子でした。

大人になり、何度か小説も書いてみて、いくつかの文学賞にも応募をしたこともあるのですが、結果はどれも最初の選考にも引っかからず、私は得意だと思っていたことが、自信ではなく過信だったのだ、ということを思い知らされたのでした。

でもまた今、仕事がない私は「もしかして」と思ってみたりする。

いまだに空想癖のある私は、誰かが「面白い」と言ってくれる、「すごいね」と言ってくれることを空想して、物語を書いてみようとパソコンに向かい、ワープロを立ち上げました。

しかし、です。

書き始めの3行で、その文章が面白いのかどうか確信の持てない私は、30分と持たず、机を離れてしまう。

 

テレビのある居間に戻ると、ハーさんがいました。

生ギターをかかえているぞ。アコースッティックギター。

その持ち運び用の小さなギターは、何年も前に何かのお返しで頂いたカタログギフトの中から「カッコいいじゃない」選んだもので、ギターというにはあまりにも安いもの。

手にすることもあまりなく、ベランダに面したサッシの脇にずっと立てかけて、置かれたままのもの。

ハーさんがボロンと弦をつま弾き、言いました。

「チューニング、グチョグチョの様であるな」

なんか、わかったような物言いだ。

私は、ギターにはチューニングが必要だ、という事を今思いだしたくらいの腕前なので、その音たちが狂っているのかどうかもわからないのです。

得意なはずの文章に早くも行き詰まり、見つめる先には弾けもしないのに所有しているギター。

私は自分への嫌悪感の代わりに、つま弾くハーさんに嫌悪感を覚得る事にする。

ハモニカあったよねえ」

ハーさんが言いました。

そうだ、私はハモニカにも興味を持ったことがあった。テレビでギターを弾きながらハモニカを吹く人がかっこよかったから。

「押し入れ?」

ハーさんが奥の六畳間を見て言いました。

 

それでハーさんは押し入れを掻き回している。

「どこにしまったぁー?」

そう聞かれても、何処に何を突っ込んだのか、私にはもうわからなくなっているのです。

私はハーさんが押し入れから引きだして来たダンボールの一つを、興味を持って開けてみる。

「なんだったっけかな、この箱。もう全部忘れたなぁ」

なんだかワクワクしている私。

そんな私をハーさんが見て言いました。

「忘れてたんなら、無いのも同じだねぇ」

ハーさんの言う意味は、よく分かるのですが、何かを捨てるという事は、自分の可能性を諦める様な気がして、私はおおよそ取っておく。

ハーさんは、私の考えている事がわかっているのか、もう一つ箱を抱えてきて、私の前に置きました。

「でも、まあいいよね。こういった楽しみ方も出来るし。はい、もうひとつこの箱も。これも何が入っているのかわかんないんでしょ?」

出て来たものは、ほぼガラクタで、これらをしまい込んだ時、自分が何を考えていたのかもわからないようなものばかりでした。

ハモニカみつかった?」

押し入れに頭を突っ込んでいるハーさんが聞きました。

あー、そうだハモニカを探していたんだ。

私はしまい込まれていた箱の中身に興味津々で、今の目的も忘れていた。

こんな感じで、箱の中にこのガラクタたちをしまい込んだ時もすぐ忘れたんだろうな。

もったいない。きっと後で売れる。いつかやる。きっとやる。とか思ったはずだ。

でもそれはすぐ忘れた。

自分はいつも、いつかやる。きっとやると。思っていたんだ。

数えきれないAVケーブル、昔のパソコン。小さなフィギュア、手つかずのCD、薄汚れたプラスチックの小物たち。ビニール袋一杯の筆記具たち。

それらを前にして、なぜか私は何も結果を出していない自分の人生に気がついているのでした。

 

私はわからないことや、忘れものだらけだ。

 

「ナーニをボーッと暗い顔してんの」

ハーさんがまた箱を持って、私の前にいました。

「これかもよ。ほら、ハモニカの吹き方の本が入ってるもん」

私は、我に返り、散らかった部屋をながめます。

「あー、もう。片付けるの面倒くさいなぁ」

もうハーモニカなんかどうでもよくなった私は、この箱が最後と決めて、中に手を入れる。

すると、押し入れに戻ったハーさんが叫びました。

「あった!あったぁ~」

え、なんだ、この箱じゃないの?と思い、私がハーさんの許へ行くと、ハーさんは大きな黒い布ケースを押し入れから引きずり出した。

「やったー!ボクの電気ギターだ!」

「え?」

そう言えば、むかーし電気ギターがあったような。

ハーさんの?私のじゃなかったっけ?

ハーさんは、手を叩いてケースを開けました。

出て来たのは見覚えのある、さっきの生ギターと同じくらい小ぶりの電気ギター。

見覚えがあるぞ。私のだ。

「ハーさんのじゃないよ。私のだ」

「ボクのだもん。タバコ吸いながら引くとカッコいいんだ」

何だかハーさん有頂天です。

「ま、いいけど。ハモニカじゃないじゃん」

私は、呆れて、それ以上主張せず、さっきの箱に戻ります。

手に当たった小さな青い四角の箱。

あった。

ハモニカが見つかった。

とりあえず、今、探していたものは見つかった。

 

 

◎お読みいただき、ありがとうございました。