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はがねのようせい

う~ん。私のそばには妖精がいて。

妖精とCを探す その2

フォォォーン、フズゥー、ブォウフフゥー。

妖精が、ハモニカ、吹いている。

 

押入れから引きずり出した山の様なガラクタはそのままに、私とハーさんはテレビの部屋に居るのでした。

ハーさんが持っているのはその中から見つけ出した電気ギターとハモニカ

ハモニカを吹いたハーさんが言いました。

「えーと。ドってどの音だっけ?」

「あ。洒落?」

「え?」

「ドってどの音、って言っただろ?」

ハーさんは答えず、へへへ、と照れている。

私は構わず、話を戻します。

「だから。ドレミファソラシド~のいちばん最初の音だよ」

知っている知識で、そう言ってやった。

「そりゃそうだよねぇ……。あー、思い出して来た。ほら、そっちもギター持って」

ハーさんが、最初からあった生ギターを見て私を促します。

そうそう。

この生ギターのチューニングを合わせるために、押し入れをひっくり返してハモニカを探したのでした。

私は生ギターを手にします。

久しぶりに手にしたギター。

「ギターが二本あれば、いっしょに演奏できるよねぇ」

私には認識できないハーさんの顔がとても嬉しそうに見えました。

そして私は、いつもの癖が出る

「チューニングも出来ないのに、そんなの無理だって」

「又、無理って言った」

その癖を素早く見つけたハーさんがそう言いました。

 

ブフー。ブー。ブブブー。

ブブブブブブブブー。

ブー。

 

ハモニカを吹いたハーさんが、我が意を得たり、という顔をしたようです。

「わかった。これがドだ。シー」

「え?」

私は一瞬判りませんでした。ハーさんが呆れて言います。

「シー。ドのことでしょ」

そう言えばそうだった。ドはCだ。

「知ってるよ。そのくらい。えっとね、コードはこうやって押さえるんだ」

私は、悔しくて、右手でうろ覚えのコードの形をギターの弦に当てる。

そうして痛い右手を離さないように急いで左手で弦を奏でました。

ゲロベヨゥリョョン……。

グチョグチョの音が響き渡ります。

どういう顔だかわからないハーさんが、真剣な顔をして言ってきた。

「だから。チューニングでしょ。まずは」

私は唇を尖らした。けれどもこう思う。

うん。そりゃそうだ。と。

 

「でもさぁ。ギターって基本、解放弦でチューニングしなかったっけぇ?イーとかエーとか」

そう言ったハーさんが、手元に置いたハモニカを眺めながら、チューニングの合った電気ギターでドレミを奏でています。

アンプが内蔵されている電気ギターなんだけれども、電池が無いので小さな音だ。

私も、ド、を弾いてみる。

「おー。あってる。あってる」

私は嬉しくて。ワクワクしてきます。

チューニングが出来ただけで、今度は何でも出来る様な気がしてくるのです。

なんとか2本のギターをチューニングし終わった時、日の暮れるのが早い外が薄暗くなっているのに気付きました。

「買い物行こうと思っていたんだけどなぁ」

私は、ギターが嬉しくて、他の事が面倒くさくなっていた。

「いいんだよ。そんなのいいじゃん、買い物なんか。ねえ、ねえ、合わせてみようよ」

ハーさんが私をせかします。

「え?何を?」

ドレミだよ。押さえられる?ドレミファソラシド」

私は何とかやってみる。

憶えていました。

3回間違えてけれど、憶えていた。

ハーさんがカウントを取りました。

「よし。じゃぁ、行くよ。ワン、ツー、スリー、フオー」

私は妖精と一緒にドレミファソラシドを弾いてみる。

 

ハーさんは意外にきちんとギターを弾けるようで、私はもしかしたらその電気ギターは、やっぱりハーさんのものだったのかもしれない、と思ってみたりしました。

昔、いつだったか、ハーさんは私のそばでギターを弾いていたのだろうか。

私はギターを無秩序にかき鳴らしながらそんな事も考えていた。

すると、私のへたくそな生ギターに呆れたハーさんが、

「だめだなぁ。じゃあさ、歌、歌える?」

と聞いてきて、古いフォークソングを奏でだすのです。

知っている歌だ。

知っている曲だけれど、歌なんか音楽の授業でしか歌ったことのない私は躊躇する。

「又無理とかいうんでしょ」

私の言うことを見透かしてハーさんが言いました。

憎たらしい奴です。

だって私は歌えないのだから。

そんな事に声を使ったことが無い。

声というもの自体、ハーさんと話す以外、ここ数日使っていない。

でも、きちんとしたハーさんの伴奏に、いつしか私は声を出していた。

 

「いいねぇ。気持ちいいねぇ」

へたくそな私の歌声の後ろで、ハーさんと、その伴奏がそう言いました。

 

今、歌をもう少し歌ってみよう。

そして。

今日はやらないけれど、明日、押入れを片付けて机に戻ろう。

パソコンを開いてもう少し自分が作った物語を書いてみよう。

楽しいお話を書いている私。

歌も、もう少し上手くなりたいし、ギターだって弾けるようになりたい。

おお。ギターを弾いて歌っている私。

 

そんな空想をして、私は少し嬉しくなるのでした。

 

とりあえず無理そうなことは一つもないのです。

 

 

◎お読みいただき、ありがとうございました。